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マキャベリ『君主論』 足をひっぱりあう会社、助け合う会社

学びと読書
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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 マキャベリは堅牢な城壁を擁し、住民が団結している都市を攻略するのはむずかしい、臣民を団結させるのも君主の仕事だと言っています。ただ、現在は中世のように城壁で街を守る時代ではありません。サラリーマン人生に当てはめて考えてみました。

 マキャベリは『君主論』10章[1]で、統治する都市には他国に頼らない防衛能力を備えること、1年分の飲料や食糧や燃料の備蓄および平民に与えられる仕事があれば、強国を恐れることはないと言います。

 1年分の備蓄をめぐっては、小田原合戦の例が参考になるかもしれません。豊臣秀吉は徹底した兵糧攻めを行って北条氏を滅ぼした戦いです。1590年4月3日から始まり、7月5日まで続きました。

 当時の小田原城には、城内に水田など自給自足が可能な環境が備わっており、兵士と農民は分離されていませんでした。そのため、田植えや刈り取りの時期には兵士を国に帰す必要があります。豊臣秀吉軍は職業軍人集団であったため、農業のために帰国する必要がありませんでした。結果、豊臣軍は攻撃を継続することができ、小田原城側は援軍が到着する見込みはなく城を守りきることはできませんでした。[2] [3] [4]

 このように、小田原城の籠城が3カ月で決着がついたことから、マキャベリの言う1年分の備蓄は説得力があると言えます。豊臣軍では分業が進んでいたこともポイントかもしれません。ただ、現在は中世のように城壁で街を守る時代ではありません。サラリーマン人生に当てはめて、解釈しなおす必要がありそうです。君主を経営者、国を組織、臣民を従業員と考えてみます。

 自社ビルを所有して、周囲を掘りで囲めば万全……ではありません。在宅ワークやサテライトオフィスなどを活用すれば、流動性が低い不動産は敬遠される傾向すらあります。組織を守る城壁は何なのでしょう。DX化の推進、セキュリティへの投資、信用、ブランディングなどが見えない城壁となって敵から守るのかもしれません。このような対策に投資を惜しんでならないでしょう。

 また、従業員同士の団結は頼りになります。ブラック企業では競争に駆り立てられた従業員同士が足を引っ張り合い、結果的に組織全体の生産性を低下させます。一方、ホワイト企業では、従業員同士が助け合い、生産性を高めます。どちらが頼もしいかといえば、後者です。

 マキャベリは「人間は本性においては、施された恩恵と同様に、施した恩恵によっても、義務を感じあうもの」と述べています。君主は善政で臣民の優れた団結を促し、君主の安全を強固にできます。

 リーダーは、従う者たちに仕事を与え、食べることに心配をさせないことも仕事。お人好しになれ、と言っているわけではありません。マキャベリは君主論全体を通じて、臣民に対し善政を行うことを求めています。恐怖で統治しても人心の心はつかめません。いざとなったら人々は君主をかんたんに見捨ててしまうからです。

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【脚注】

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