弱者男性

精神科医と不倫関係になりかけた患者女性の話

人生(LIFE)
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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精神科医もうつになる。あまりに強すぎる承認欲求は身を滅ぼしかねない。「何かに成ろう」「何かであろう」と願うとき、その者はいまだ何者でもない。

 精神科医だからといって聖人君子ではありません。悩みを抱えていることもあるし、人間的にいかがなものかと疑ってしまうような人もいるものです。

 筆者の共通の知人であるAさんは、空調設備のメンテナンス業務に携わる独身アラサー女子。長い髪をなびかせて、現場仕事に打ち込む姿は皆をほれぼれさせるに違いありません。一見、頼りがいがありそうなAさんも心が折れることがあります。1年前の出来事でした。仕事の質や量、将来の不安、人間関係のストレスなど、さまざまな原因から心身の不調が表れました。パニックを起こして夜中に目覚めることも。

 そこで心療内科を受診。担当はバイト医で年下です。数回受診を重ねると、Aさんはこの担当医に恋心を抱くようになりました。SNSでダイレクトメッセージのやりとりも開始。彼もまんざらではないらしく、「会おう、会おう」と積極的なメッセージを送ってきます。温泉旅行へも誘ってくるほどです。

妻がいた

 しばらくすると、A子さんはこの担当医とのメッセージのやりとりが少し嫌になってきました。彼は承認欲求が強く、やれカンファレンスがどうの、オレ医者だぜ、今日は当直だったぜ、などオレすごいんだぜアピールばかり。さらには衝撃の事実が判明します。なんと妊娠中の奥さんがいたのです。

「結婚しているのに、なんでDMのやりとりなんてするんだよ」。A子さんは納得できません。未練はありましたが、奥さんのことを思えば忍びない。この医師のことは忘れることに。

 他の心療内科への転院も決意しました。ほかならぬこの医師に紹介状を書いてもらわなくてはなりません。案外すんなりと承諾し、1週間後には窓口を通して紹介状を受け取りました。

精神科医も人間関係で悩む

 数か月間、二人の関係は終わったかに見えました。ところがある日、SNSでダイレクトメッセージにあの医師からのメッセージの履歴があるではありませんか。A子さんは気になって、折り返しメッセージを送ってみると、勤務する病院が変わったというのです。

 勤務先にはウマがあわない医師がいるらしく、人間関係でかなり悩んでいるようでした。会おうというので、会ってみることに。

 思えば診察室以外でこの医師と会うのははじめてです。医師は女性に対しても不慣れな印象で、自信まんまんだったメッセージの雰囲気とはまったく違います。自分のことばかり話して、しかも、誘っておきながら食事代は割り勘。

「あなたって自分のことばかりだよね。すごいすごいって、言ってくれる人が欲しくて、他人には興味がないんでしょ。さようなら」

 このように言ってA子さんは曖昧な関係を終わらせたそうです。

 医師という肩書に惹かれて近づいてしまいましたが、わかり合えなかったA子さん。この経験を後悔しているそうです。肩書ではなく、わかり合えるパートナーの大切さを学んだのでした。

※実話をもとにした記事です。筆者が直接見聞きしたり、取材した内容がもとになっています。個人が特定されないようところどころ変更を加えながら構成しています。

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