だめ連

「就職と結婚はオススメしない」なぜ人々の心に響いたか

随想
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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だめ連の神長恒一さんとはじめてお目にかかってからおよそ30年が経過しました。この間で、神長さんの思想的な変化を感ます。「就職と結婚はオススメしない」と「資本主義よりも楽しく生きる」、この2つの言葉を考えてみようと思います。

就職と結婚はオススメしない

2023年2月、だめ連のメンバーだったペペ長谷川さんが亡くなり、東京都内で送る会がありました。そこで久しぶりに、もう一人の重要人物である神長恒一さんに会いました。

ペペ長谷川さんのひつぎの傍らにあるのは河出書房新社から出版された単行本だめ連宣言!』です。

(写真:モクソン)

90年代に神長さんは、この『だめ連宣言!』で私たちの人生において「だめなヤツ」と思われたくないというプレッシャーが存在すると主張します。

世間では「働いている」と言った方が「無職」よりも好まれます。さらには「正社員」であることや「大企業」に所属していることが魅力的な印象を与えるでしょう。これらの基準を満たしていない場合、私たちは自己卑下してしまう傾向があるかもしれません。

加えてこの頃、神長さんは「就職と結婚はオススメしない」という名言も生み出しています。就職と結婚がワンセットになっているのが面白いです。結婚相手選びでは年収が指標の一つであるものです。

執着を手放す言葉であって、決して「就職も結婚もしてはいけない」といった禁止の言葉ではありません。実際に、だめ連界隈では多くの人々が結婚し、勤め人になってゆきました。生活を安定させるためには、重要なステージの選択です。

うだつ問題

一方で、人生では良縁にめぐまれなかったり、ブラック企業で働いたりすることもあります。この場合、「あのうだつの上がらないヤツ」と誹謗(ひぼう)中傷されかねません。社会的に「うだつを上げること」が重要視される場合では、自分に向かない選択や変化をする圧力に遭遇します。そこで人生における判断を見誤ってしまうことが起こりえます。

この「うだつを上げること」への執着から離れる生き方はできないものでしょうか。当時の神長さん(だめ連)は、この「うだつ問題」に人生を捉え返す論点を発見し、ユーモラスなトーク力で話題にしました。

バブル景気の幻影を残した90年代中盤は、失われた30年のはじまりでもあります。景気のトンネルに入った時期に、神長さんの言葉は不安を抱く人々の心に響いたのではないでしょうか。たちまち世間の人気者となり、テレビや雑誌に登場しました。

2000年代以降ではphaさんがニートの生き方を再定義したり、プロ奢ラレヤーさんのように奢られたりして生活することを目指す人たちが登場しました。彼らは神長さんのポジションと、やや重なるように感じます。

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資本主義より楽しく生きる

90年代に神長さんが残した名言「就職と結婚はオススメしない」の理想とするところは何だったのでしょうか。国や世間の価値観に流されず、個々人の経済的・精神的自立することであったり、ゆるいコミュニティーづくりであったりと感じます。当時の人々の心をつかむ力を持っていました。

Twitterより

Twitterより(写真:モクソン)

さて、最近の神長さんのモットーはどうなのでしょうか。Twitterなどの概要欄などを見ますと、「資本主義より楽しく生きる」のようです。かなりとんがった表現で、私はこの言葉の意味を理解するのに苦しんでいます。

肯定から否定の思想へ?

「就職や結婚をしない(できない)選択」に積極的な意味を見いだし、「いまここで生きる」という肯定的な思想を受け止めた私には、資本主義より楽しく生きるという考えはなじみにくいものです。いまここで生きることに、否定的なニュアンスも感じてしまいます。どこかしら、何かを(人々を)つきはなすニュアンスも感じます。

ここからここまでが資本主義だとジャッジすることは可能なのでしょうか。それは誰がするのでしょうか。「資本主義より楽しく生きる」という言葉には、存在の本質を規定する絶対者を必要とするように感じます。あしき左翼風独裁者の登場を予感させるのです。

私は、神長さんのいまのモットーが理解できないかもしれませんけれど、彼の言葉には深い意味があると信じています。私たちは、常により良い未来を目指すために、自分自身が選んだ生き方を模索します。この点について、また神長さんとお話しできる機会があればうれしいことです。

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