2001年宇宙の旅

月面のモノリスは警報器説 映画『2001年宇宙の旅』は自分勝手な解釈ができない?

レビュー
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

木村 邦彦をフォローする

映画『2001年宇宙の旅』のあるシーンの解釈について、インターネットのQ&Aサービスで質問してみるとーー。「映画は基本的にその映画において完結されるべきもの」という意見と、「小説版や原作があるなら自分勝手な解釈ができない」という2つの立場があることに気づかされました。

物語の解釈をめぐる2つの立場

 ユーザー同士がQ&A形式で知識や知恵を教え合うインターネットサービスで、映画『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督)の質問をしました。「月で発見された黒い物体が発した音は何?」 

 そこで有益な回答を得られました。監督のキューブリックがアーサー・C・クラークに書かせた小説版によれば、人類が月にまで到達したことを宇宙人に知らせる「警報器」のような存在、と描かれているそうです。ところが、映画ではモノリスを「警報器」と説明しているシーンはありません。

 物語の解釈をめぐっては2つの立場があるようです。

1の立場.映画は基本的にその映画において完結されるべきもの。言い換えると、原作を読まないと分からない、どこかから別の説明をしないと理解できないというのであるなら、その作品は不出来なもの」(月で発見されたものは警報器かは不明である)

2の立場. 「SF作家に書かせた小説版ですべて詳しく説明してある。この映画は自分勝手な解釈ができないようになっている」(月で発見されたものは警報器である)

 私の考えは1の立場に近いです。月面で宇宙服を着た科学者たちが謎の黒い石板のようなもの(モノリス)を調査し、その前で記念写真を撮ろうとします。すると、突然につん裂くような甲高い音が突然鳴り、科学者たちは頭を抱えて苦しみ出すのです。わたしは、記念写真を撮ろうとした人類のおごりに対する「聖なるもの」(黒い石板)の怒り、だと思っていました。この説もあながち間違っていないのでは……と個人的には感じているところです。ところが、小説版や識者の説明では単なるお知らせ音であり、黒い物体を「警報器」としています。少々拍子抜けしてしまいました。

 映画を見て感じた世界と、小説版で書かれていることが違っていた場合、映画から感じ取った世界は「間違い」なのでしょうか。絵画で言えば、作家自身による説明は権威があるものの、あくまで参考程度のものでしょう。たとえば、ムンクは自身が描いた『叫び』を「自然をつらぬく叫び」[1]と説明していました。一方、鑑賞者からは「あれは私の叫びだ」「ムックの叫びだ」「忘れ物に気づいた叫びだ」……といったさまざまな感想を拾うことができます。

 作家と作品を見た人とで受け止め方が違っているのも面白いものです。小説版を書いたアーサー・C・クラークにしても、キューブリックの世界観に対する解釈の一つなのではないでしょうか。


【脚注】

タイトルとURLをコピーしました