体をはった仕事

粟津潔・山下洋輔「ピアノ炎上」 巨匠の炎上動画

レビュー
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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かつてピアノを燃やし、その燃えるピアノで演奏した人がいました。どうしてピアノを燃やしたのでしょうか。

 9月から10月中旬までは気候的にキャンプのしやすい季節。たき火を囲むと、友との結束をうながし、友情を育ませるように感じられてくるものです。ところが、かつて「まき」ではなくピアノを燃やた2人の男がいました。ジャズピアニストの山下洋輔とグラフィックデザイナーの粟津潔。この炎上劇は『ピアノ炎上』(監督:粟津潔、1974年)というタイトルで映像作品になっていて、山下洋輔は燃えるピアノで演奏もしています。

 ギターを燃やすジミヘンの破壊的なステージから着想を得ているのでしょうか。1974年当時の企画趣旨はよくわかりませんが、2008年にも再演されています。このとき、山下は朝日新聞の取材に対して「ただならぬ中に身を置こうという希望」[1]を達成するためだと述べています。

 何かを燃やすと有害な化学物質が発生しないのか心配になってくるものですが、大丈夫なのでしょうか。近隣住民にきちんと説明しないとクレームにもなりそう。SNSも炎上しかねません。

 最初の作品が撮影された1974年ごろは各家庭の庭などで、ゴミなどをあたり前のように燃やしていた時代です。わたしの故郷仙台の実家でも、裏の空き地に空のドラム缶が置かれ、近所の人たちはゴミを放り込んで燃やしていました。わりと寛容な時代だったことを考慮しなくてはなりません。

 燃えさかるピアノは奇妙な音を放つようになり、やがて音をさせなくなってゆきます。終末的な光景にもかかわらず悲哀を感じさせません。山下洋輔は、やけどをしないように焦っているためか、いつにない緊張感を伝えています。引田天功の脱出ショーを見ているようでおもしろいです。

 デザイナーの巨匠、著名なピアニストとのコラボレーション。若かりし才能が一つの作品を残していることには感動を覚えます。才能は才能を呼ぶ実例でしょう。優れた才能をもった仲間は、抜き差しならぬライバルであると同時に、自らの価値を決定づける大切な存在です。「よき師よき友つどひ結べり」。粟津潔の母校の校歌にある歌詞のようでありますね。


【脚注】

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