「空港のための音楽」を聴く

レビュー
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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Music for Airportsは、アンビエント、もしくはエレクトロニカの世界で、とても重要な作品だ。とりわけ、ロバート・ワイアットがピアノで奏でる曲「1/1」が美しい。

 
Music for Airportsは、リズムも印象的なメロディもないのだが、音楽として大変に心地よい。チベットのシンキングボールが表すような温かい無の世界を、ピアノで表現しているようだ。
ピアノを弾いているのは、元ソフトマシーンのドラマーであるロバート・ワイアットである。彼は、事故により下半身不随であり、ドラマーからピアニストに転身していた。彼の下半身不随のハンディキャップは、アドバンテージでもあったと言えるかもしれない。というのも、彼はピアノのペダルを操作していないと思われる。単調な音の響きの連続は、まさに鐘の音のようだ。
アンビエントミュージックは、このようにして、穏やかな作品と共に開花してゆく。それ故に、「癒やし」の音楽であると誤解される傾向もあるが、必ずしも「ヒーリングミュージック」ではないことは、後のエレクトリカを牽引してゆくことになる作家たち、たとえばエイフェックス・ツィンなどのアンビエントの解釈をみれば明らかであろう。
リズムを廃した、非劇的で劇的な世界を構築する挑戦。これは過激な試みであるだろう。静かで、魂を鎮めるような音楽の背景には、新しい音楽のジャンルを切り開くアイデアとエネルギーが秘められている。30年以上たっても、この音楽は新しいまま。
Music for Airports: Ambient 1/Remastered

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